春の扉 ~この手を離すとき~
「あのね、そういうことじゃなくて。わたしは別れ、」
「じゃあ気をつけて帰ってこいよ。こっちに着いたら一応連絡しろよ? 」
言いたいことだけ言った健太郎くんは、さっさと電話を切ってしまった。
せっかく勇気を出して別れを切り出したというのに。
これって別れられなかったってことなんだよね?
わたしの気持ちは健太郎くんに全く伝わっていないの?
ううん、そんなことない。
はぐらかされただけなのかもしれない。
だって健太郎くんから電話を切るなんて、これまでなかったから。
電話でこれだけ畳み込まれてしまうのに、健太郎くんを目の前にしたとき、わたしはまた別れを切り出すことができるのか不安になってきてしまった。