春の扉 ~この手を離すとき~
「あ、分かった。 それって文通相手からのプレゼントでしょ! 」
「ちょっと文乃っ、」
慌てて文乃の大きな声を抑えようとしたけれど、健太郎くんの耳にはしっかりと聞こえたみたいで。
純輔との話を中断してわたしの方を向いてきた。
「なに? 何の話? プレゼントって。それ……誰にもらったわけ? 」
健太郎くんにはあまり見られたくない。
急いで袖を戻すわたしの左手首を、健太郎くんは面白くなさそうに見ている。
「健太郎、やきもち焼かなくて大丈夫だよ。美桜の文通相手は人畜無害だから」
健太郎くんを安心させるように文乃は笑っているけれど。
「文通相手? 」
健太郎くんには手紙のことは知られたくなかったのに。
智香もわたしの気持ちを察してくれたようで、同情の視線をわたしに送ってくれている。
「美桜って文通とかやってんの? 相手はどんな人? 男? 女? 」
健太郎くんが食いつき気味に聞きはじめた。