春の扉 ~この手を離すとき~
「文通ってそういうものだし。それに相手はずっと前からわたしのことは知ってる方だから」
「うっわ、なにそれ? 美桜はそいつを知らないのに、なんでそいつは美桜のこと知ってんだよ? それさぁ、ヤバいやつじゃねぇの? 」
今『ヤバいやつ』って言ったの?
いったい何を知っていてそう決めつけれるの?
相手が桜の木かもしれないってことは口が割けても言えないけれど、ずっとわたしを気にかけてくれているし、わたしの心を支えなのに。
「健太郎、その言い方はないよ」
「でも顔も知らないんなら怪しいだろ? まじで連絡とかやめとけって」
健太郎くんを制止しようとする智香だったけど。
分からない人に何を言われても放っておけばいいのかもしれない。
けれど、やっぱり悔しい。
大切な人をからかわれたり悪く言われるのは耐えられない。