春の扉 ~この手を離すとき~


「何も知らないくせにっ! 」


思わず、自分でも驚くほどの大きな声を出してしまった。

ポカンとしてわたしを見ている健太郎くん。

ううん、健太郎くんだけじゃない。
静まり返った教室に気がつくと、クラス全員がわたしたちに注目している。



「あ、……えっと、ごめん」


わたしはその場に居づらくなって、小さくつぶやくと教室から抜け出ようと扉に向かったけれど。


「おっと! ……大きな声が聞こえたけれど何の騒ぎ? 」


咲久也先生が教室に入ってくるタイミングと重なって、わたしは先生に突進するようにぶつかってしまった。


先生が来たことで“話のネタ”になりそうなこの騒ぎは強制終了。
注目していたクラスメイトたちはがっかり感を出しながら、ガタガタと席につきはじめる中、


「心配だってことぐらい分かれよっ 」


今度は健太郎くんが大きめの声を出した。


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