春の扉 ~この手を離すとき~


『おばあちゃん、どうしてくろいくもからきれいなゆきがふるの? まっしろなくもからじゃだめなの? 』


小さい頃、暗い雲から白い雪が降ってくることが不思議でしかたなくて、おばあちゃんに聞いたことがあったっけ。


『あの雲でないと真っ白な雪は降ることはできないのよ』

『なんでー? 』

『美しいもの輝いているものほど、その裏には辛いこと苦しいことがあるってこと』


首をかしげっぱなしのわたしの肩を寄せながら、おばあちゃんは微笑んでいた。


『小さなあなたにはまだ難しいわね。でもね、美桜。物事の表面だけを見ていてはだめ。その後ろに隠れているものに気づけるようになりなさいね』



あのとき、言われたことはなんとなく分かるようにはなったけれど。

でもおばあちゃん、わたしにはまだ難しいよ。

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