春の扉 ~この手を離すとき~

「桜、好きなの?」

「……はい」


そんな質問どうでもいい。
恥ずかしすぎて、今すぐにこの場を立ち去ってしまいたいのに。


「だろうね。美桜って名前はそのままだもんね」

「……名前負けしちゃってますけれど」


そう謙遜しながらも、実は気に入っている名前。
名付け親もおばあちゃんだし。

でも最後に“お”とついているせいで子供のときに『おじさんみたいな名前』ってからわれて嫌な思いをしたことはあるけれど。


「きれいな名前だよね」


先生はそう言うと微笑みながらうなずいてくれた。
その微笑みにドキドキしてしまうし、それに、名付け親のおばあちゃんを誉めてもらったみたいに思えて、とてもうれしく感じた。


先生は様子を確認するように桜の木を見上げながら、わたしと同じように桜の幹に手をあてた。


「何をしているんですか? 」

「暖かくしてあげたいんじゃなかったの? 」


きっと他の人が見たら笑う。

なのに先生はわたしと同じように桜の木が寒がってるって思ってくれたの?

わたしはうれしさで顔がほころぶのを隠さずにうなずくと、もう一度、両手を桜の木に手をあてた。

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