春の扉 ~この手を離すとき~
「でもさ、中途半端に手を差しのべることは可哀想なことなんだよね 」
「……え? 」
「本当にこの木のためだと思っている? 自分の自己満足のためだけにしているんじゃないの? 」
先生は諭すようにわたしを見てきた。
同じ思いだと思っていたから、急にそんな目で見られると辛くなってくる。
「まぁ、僕も人のことは言えないけれどね」
何も言えないわたしに苦笑いを浮かべた咲久也先生は、桜の木から手を離した。
そう言われてしまうと、わたしも続いて手を離すしかない。
そのとき左の手首から桜のブレスレットがキラッと光った。
「あ、……すみません。外します」
「どうして? 」
「だって規則が」
「僕は何も見ていないんじゃないかな? 」
注意されてしまうと思ったのに、先生はふふっと笑いかけてくれた。
生徒指導の先生に見つかったのならば、没収されてしまってもおかしくはないのに。