春の扉 ~この手を離すとき~
「ねぇ美桜……、寒くはない? 」
「え? 」
突然の先生からの質問、というよりは愚問。
マフラーとコートは着ていて、それなりの防寒対策はしているけれど、冬の外は寒くないとはいえない。
でも一瞬だけ浮かない顔をした先生。
その表情に、聞かれているのはそんなことじゃない気がしたけれど、先生はそれ以上は何も聞いてはこない。
「いえ、大丈夫です」
「……そっか」
やっぱり意味ありげな言い方。
何のことを言っているのか聞いた方がいいのかもしれないけれど。
でも、どう聞いてみようかと考えている間に、先生の表情と話題がコロッと変わってしまった。
「ところでさ、明日は何か予定ある? 」
「……いいえ? 」
予定と聞かれても平日だから学校しかない。
「じゃあ決まり。明日の放課後は資料室で待っているからね」
「……は? 」