春の扉 ~この手を離すとき~

「咲久也せんせーい! みーおーっ! 」


わたしの思考を強制停止させる大きくて元気な声が聞こえてきた。

文乃と智香が体育館へ続く渡り廊下から手を振っている。
これから部活らしくて、文乃はジャージ姿だった。



「つーかまーえたっ! あったかーい」


走りながら近寄ってきた文乃は、遠慮なく先生の腕にしがみついて笑っている。

その大胆さが少しうらやましい。


誰にでも人懐っこいのが、文乃のいいところでもあるのだけれど、こんなところを純輔が見たら、やきもちを焼いて怒らないのかと心配にもなってしまう。

相手が健太郎くんだったら、間違いなく機嫌が悪くなるんだろうな。


「君は相変わらず元気がいいね」

「元気と愛嬌だけはあたしの取り柄なんだもん」


文乃のなすがままにされている先生は引っ張られる重さに肩まで傾けられながら、でも笑っていた。

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