春の扉 ~この手を離すとき~
「それはいいことだけれど、そのエネルギーをほんの少しだけ勉強に向けてもらえるかな? 学期末は危なかったよ」
「勉強は専門外なんでーす。ねー? 」
文乃は何も気にしてないようで、遅れてやってきた智香とわたしに同意を求める。
もちろんわたしたちは否定のしようがないので大きく「うん」とうなずくと、文乃はその返事に満足したようで、咲久也先生に「ほらね」と笑いかけた。
「ところで、ここで何をしているんですか? 」
智香が見たまんまの、でも聞かれたくなかった質問をぶつけてきた。
『桜の木を暖めていました』
……なんて言えない。
でも他の言い訳が浮かばなくて言葉につまってしまう。
「……えーっと」
「お花見だよ、ね? 」
先生の助け船にわたしは黙ってうなずくしかないのだけれど。
でも文乃と智香には伝わるはずもなく、その意味を理解できずにきょとんとした顔になっている。