春の扉 ~この手を離すとき~
「じゃあ僕は戻らないと」
「はーい、先生またねー」
考えることを放棄するきっかけができた文乃は、あっけらかんと咲久也先生の腕を解放すると、今度は智香の腕に絡みつきなおした。
「2人とも部活がんばってね。それから遠野さん、」
「はい? 」
そう言えば先生は2人でいるとき以外はわたしを名字で呼んでくる。
クラス全員の名前は覚えていると言っていたのに、名前で呼ばれている生徒を知らないし。
この違いというか、区別はなに?
もしかして、他の生徒も2人のときだけ名前で呼んでいたりするのかな……。
そう思うと心がチクリと痛くなってきた。
「明日の放課後はよろしくね」
「……は? 」
まだ手伝うなんて言っていないのに。
もしかして強制参加ってこと?
先生はふふっと笑うと校内へと戻って行っていった。