春の扉 ~この手を離すとき~


「ところでさ、最近、彼氏とはどうなったの? 」


資料の部数を確認している咲久也先生は、何にも気にせずに聞いていた。


「……それってセクハラですよ」


つい冷めた口調で答えてしまった。

だって先生といるときに、そして今さら健太郎くんのことを話をしたくないと思ってしまったから。

それに助けてもらったとはいえ、公園での出来事を先生に見られてしまっているし。

思い出したくなくて、記憶を封印するかのように留めていたホッチキスを強く押した。

でも力のバランスが悪かったみたいで、ぐにゃっと曲がった芯は資料に食い込んで変なアトをつけてしまった。


「訴えられたら困るから。じゃあ今のは独り言ってことにしておいてもらえるかな? 」


わたしがあまりいい気がしていないのを何とも思っていないようで、それ以上は何も聞くつもりもなさそうな先生。

を演じているような雰囲気の先生。

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