春の扉 ~この手を離すとき~
ねだるような表情をした先生がわたしの顔をのぞきこんできた。
その距離が近すぎて、急に恥ずかしくなって言葉がでない。
返事を待つ先生にフルフルっと頭を振って伝えるしかなかった。
「美桜? 気持ちを言ってくれないと僕には分からないよ」
「……、」
「言ってごらん」
そんなこと言えるわけがない。
「……先生とわたし、似ているんですよね。じゃあ言う必要はないと思います」
今のわたしにできる精一杯の返事、というか抵抗。
「全く同じ気持ちかどうかは分からないけれどね。でも僕はこの時間が楽しみだよ。美桜もそれでいい? 」
先生に『楽しみ』って思われていた。
それでますます言葉にできなくなってしまった。
もうやだ、絶対に今、顔が赤くなってる。
うなずくしかないわたしに、先生はうれしそうに目を細めてくれた。