春の扉 ~この手を離すとき~
どうすることも
「あー、また天気が悪くなりそうだね」
職員室へと向かいながら咲久也先生は窓から空を見上げた。
さっきまでは暖かな日が射していた空は、冬特有の暗くどんよりとした色の雲に覆われはじめていた。
「どうせなら雪ならいいのに」
残念そうにつぶやく咲久也先生。
今日はいつもよりは暖かいし、降ってくるなら雨になりそうだった。
「わたしも雪の方がいいです」
雨に濡れて冷たいよりは、雪で冷たいほうがいい。
それに
「小さいころ、雪の夜によく雪見をしていたんです。それがすごく綺麗だったから」
「雪見ってなに? お団子とか食べるの? 」
「いえ、ただ眺めるだけなんです」
真っ暗な夜空に浮かんでいる月が、真っ白でまっさらな雪を静かに照らしている。
おばあちゃんと縁側に並んで座って、そんな庭を眺める。
ただ、それだけなのだけれど。