春の扉 ~この手を離すとき~
雪が音を吸収してしまっているのか、何にも音がしない世界だった。
寒いというよりは冷たい空気で、それが子供心にも神聖に感じられていた。
『あのつきにかぐやひめがいるの? 』
『そうよ。お月様からおじいさんとおばあさんを見守っているのよ』
『いっしょじゃなきゃさみしいのに。かえってくればいいのにねー』
『そうね』
『みおはね、おばあちゃんとずーっといっしょにいてあげるからね』
そう言ったわたしを、おばあちゃんは優しく抱き寄せてくれたっけ。