春の扉 ~この手を離すとき~
「美桜、話したいことがある。少しだけいいか? 」
そう言ってわたしの腕をつかもうと伸びてきた健太郎くんの手。
触られたくなくて、そして怖くて思わず体がひけそうになったとき、健太郎くんの手を先生が軽くはらってくれた。
「なにすんだよっ! 」
健太郎くんは先生に睨みをきかせるけれど、それがいきがっているように見えて幼稚に感じる。
「無理矢理はやめてくれないかな? 」
「そんなんじゃねーしっ」
健太郎くんとは真逆におだやかな顔の先生。
でも笑顔なのは表情だけで、その目はあの公園のときと同じで、突き刺すほどにとても冷ややかだった。
このままだと健太郎くんが先生に手を出しそうな気がしてきた。
「話って、……なに? 」
そうならないためにも、わたしは健太郎くんに話しかけてみた。