春の扉 ~この手を離すとき~
校庭からは運動部の掛け声やホイッスルの音が聞こえている。
まだ部活動の時間だというのに、健太郎くんがここにいるのが不思議になる。
健太郎くんはずっと無言で、そしてわたしも無言で後ろに続いたけれど、歩幅が違って早く歩かないとついていけない。
健太郎くんのスマホが派手で大きな着信音を告げたけれど、3度目の着信を確認したあとにさっぱりと曲は聞こえなくなってしまった。
多分、健太郎くんが音を消したか電源を切ったんだと思う。
それにしてもどこまで歩くんだろう。
ずっと無言のままで、わたしのマンションもかなり近くなってきた。
このまま家に帰れたらいいのになんて思ってしまう。
そして、あの公園にさしかかったときだった。
後ろを振り返った健太郎くんが何かを言ったみたいだけれど、ついて行くにいけず聞き取れなかった。