春の扉 ~この手を離すとき~
「健太郎くん、あのね、」
もうここできちんと話そう。
そう決めたわたしは呼吸を整えると、冷たさで集中できなくなりそうな缶ジュースをカバンの中に突っ込んで、健太郎くんを見上げた。
「ちょっと待って美桜。先に俺から話をさせてくれ」
健太郎くんの気迫に押されてしまい、わたしは言葉を途切れさせざるを得なかった。
「……これ」
健太郎がポケットから出してきたのはリボンのついた小さな箱だった。
リボンは元気なさげにくしゃりとよれていて、箱はつぶれ気味だった。
これって、……あのときの。
この公園でプレゼント交換をしたときのものだった。
早くあの場を立ち去りたかったから。
それどころじゃなかったから。
気にもとめていないというか、忘れていた。
そしてあのときの嫌悪とショックがまざまざと甦ってくる。