春の扉 ~この手を離すとき~
「あ、健太郎いたいたーっ! 智香ぁ、こっちにいたよー」
その声に、わたしが視線をあげた先から文乃と、その後ろから智香が走ってこちらに向かってきている。
どうしてここに?2人はまだ部活中のはずなのに。
「美桜ー、健太郎ー」
まるで探し物ゲームで一番に見つけてよろこんでいるような文乃とは対称的に、心配そうな表情丸出しの智香。
「健太郎、部活に出ないで何してるのよっ? 電話が通じないから……」
さっきから健太郎くんのスマホを何度も鳴らしていたのは智香だったんだ。
2人が寄ってきても、頭をあげようとはしない健太郎くんに驚いて、智香は健太郎くんとわたしを交互に見てきた。
そして状況を把握したのか、わたしをキッとにらんできた。
これってわたしが健太郎くんを連れ出したとでも思われているとか?
思わず視線をそらしてしまったけれど、でも部活を休んだだけでわたしがにらまれてしまうの?