春の扉 ~この手を離すとき~
二人はわたしが文通相手のことを悪く言われたから、まだ怒っていると思っているんだ。
ちがうの、無理矢理キスをされそうになったの
だなんて……。
この場で……
それに智香の前で言えるわけがない。
そして智香のことを思うと、切ない気持ちでいっぱいになってくる。
「健太郎、みっともないから顔をあげて。美桜ももういい加減にして許してあげたら? 」
「違う、そうじゃなくて、」
不快感をわたしに投げつけながら、智香は健太郎くんの側によった。
それはわたしが健太郎くんをみっともなくさせているってこと?
それに、智香は『許す』って意味を分かってるんだよね?
それから何度も智香が健太郎くんの頭をあげようとしたけれど、健太郎くんは全く動こうとはしなかった。
せっかく先生に背中を押してもらえたのに。
でもこの場を納めるのは、この方法しかもう浮かばない。
「……健太郎くん。もう気にしてないから頭をあげてください」