春の扉 ~この手を離すとき~
ホームルームまであと7分もある。
でも健太郎くんと智香がいる教室にはできる限り戻りたくないし。
自販機の前でコーヒーにしようかカフェオレにしようかと悩んでいても、とても時間がつぶせそうにはなかった。
時間がたちすぎたのか入れていたお金が返却されてしまったし。
しゃがんで取っていると、誰かが自販機にお金を入れた。
邪魔になると思い「ごめんなさい」とあやまりながら立ち上がると
「僕のおすすめはこれ」
後ろから伸びてきた手が、目の前のカフェオレのボタンをピッと押した。
「そんなに悩むほどのこと? 」
ふふっと笑う咲久也先生。
その不意打ちの横顔にどきっとしてしまう。
先生はカフェオレを取り出すとわたしに渡してきた。