春の扉 ~この手を離すとき~
「熱いから気をつけて」
「ありがとうございます。あ、お金、」
カフェオレ代を差し出したわたしに、先生は笑いながら軽く首をふった。
「みんなにはおごったの秘密だよ。で、酷い顔をしているけれど何かあったの?」
先生は脇に出席名簿をはさむと、自販機によりかかって腕を組んだ。
見てすぐに分かるほど、わたしそんなに酷い顔をしているの?
温かな缶が冷たくなっていた指先を熱いほどに温めはじめ、そして同じように気持ちが安心しはじめた。
でも昨日のことをなんて言えばいいんだろう。
気持ちを伝えることができました。けれど、別れるどころか行き詰まった状態になってしまったんです。
なんて言ったら先生は呆れてしまうよね。
「別になんにもありません」
わたしは平常な顔を作ってこたえた。
「うーん、かなり無理があるよ。それに僕には『あったから話きいてほしい』って顔に見えるけれどね」