春の扉 ~この手を離すとき~
「……ぁ、」
また思わず後ずさってしまい、カフェオレの缶を持つ手に力がはいる。
そんなわたしを見て、咲久也先生は軽く息をはいて立ち直した。
「……なるほどね」
何も言えずにいるわたしの背中に、先生はポンッと優しく手を当てると耳元でささやいた。
「じゃ、あとでね」
「きゃっ」
耳に軽く息があたってくすぐったくて、思わず首をすくめてしまった。
「あ、ごめん」
先生は笑いながらくすぐったさを散らすように、わたしの頭をくしゃくしゃっと撫でてくれる。
でもそれも、恥ずかしくてくすぐったくて。
先生が言った『あと』は放課後の資料室のこと。
「……はい」
2人だけの“時間”にわたしは隠すことなく微笑み返した。