春の扉 ~この手を離すとき~
待ちに待った放課後。
HRが終わり、教室を出ていく咲久也先生と目が合った。
『あとでね』
わたしたちだけにしか分からないアイコンタクトに、うれしくてドキドキしてしまう。
早く資料室に行きたいけれど、でも周りに急いでいるなんて思われないようにゆっくりと教科書をカバンに詰め込んでいると、勢いよく教室の扉が開いた。
「健太郎、なにしてるの? 」
同時に驚いた智香が、扉をあけた健太郎くんに声をかけた。
「美桜、帰ろうぜ」
なのに健太郎くんは智香を気にもせずに、わたしのところにやってきた。
……帰るってどういうこと?
思考と行動が止まったわたしの代わりに智香が答えた。
「何を言っているのよ? 部活は? 」
「休む」
あっけらかんと答える健太郎くん。
「……は? 」
「だから休む」
「昨日も休んだじゃない? もうすぐ試合なのは分かっているんだよね? 」
いぶかしげな智香に、ニッと笑顔を見せた健太郎くんはわたしが席を立つのを待っているようで。