春の扉 ~この手を離すとき~

「文乃たちまで何を言ってるの? 健太郎が今、大切な時期だってことは知っているでしょ? 」

「俺は天才だから少しぐらい練習さぼっても問題ないっての。じゃ、あとはよろしくなっ」


健太郎くんのことを思っての智香の気持ちを軽くあしらった健太郎くんは、わたしのカバンを持ってさっさと教室を出ていった。


文乃は「置いていかれるよー」なんて楽観的なことを言っているけれど、智香の気持ちを残してなんていけない。

わたしはどうしていいのか分からずに立ち尽くすしかなかった。


「文乃、部活に行こう」


荷物をまとめた智香は文乃にだけ声をかけると、わたしを見ることもなく教室を出ていった。


さすがの文乃もこの違和感には気づいたみたいで。


「え? え? ……美桜、また明日ねー」


と何度もわたしを見返しながら、智香の後を追っていった。











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