春の扉 ~この手を離すとき~
距離が開いたままの不自然な会話。
なのにどっちからも歩みよろうとしない。
まるで今のわたしたちみたい。
「……別に。それなら『帰る』って言ってくれば。俺はここで待ってるし」
そう言いながら健太郎くんはわたしを置いてさっさと歩きはじめた。
これって『行かせない』ってことだよね。
そんなことをされたら戻りたくても戻りづらい。
それにカバンの中には家のカギとスマホが入っているし。
わたしは惨めな気持ちのまま、仕方なく健太郎くんのあとに続いた。
こうなったら早く家に帰るしかない。
それからすぐに学校に戻ればきっと大丈夫。