春の扉 ~この手を離すとき~
「美桜、言わないと分からないよ」
そうなんだけれど。
でも、恥ずかしくて言葉になんてできない。
つないだ手を離したくないなんて。
わたしは先生の手をぎゅっと握って無言で訴えてみると、先生は少し驚いた顔をして、そして、ふっと緩むように微笑んだ。
「僕だって離したくはないよ。でもこのままだと風邪をひいてしまうから。……我慢して乗りなさい」
先生はわたしの手を強くにぎり返してくれると、強制的にわたしを車の中に押し入れてくれた。