春の扉 ~この手を離すとき~
「もう冷めちゃったけど、飲む? 」
かがみながら車内のカップフォルダーを指す先生。
そこには缶のカフェオレが2つならび、運転席側の缶は蓋があいていた。
もしかしてわたしのために買っていてくれたの?
手に取ると、先生がいうように冷めてしまっているカフェオレだけれど、わたしにとってはとても暖かな先生の気持ちだった。
咲久也先生に会えたことで、ため息が出るほどに気持ちが安心した。
そして暖房の効いた車内と、座れたことで休まる足。
「とってもあたたかいです」
思わず顔がほころんでしまったわたしに、先生も嬉しそうに笑い返してくれて、そしてゆっくりとドアを閉めてくれた。