春の扉 ~この手を離すとき~
けれど、いっそ噂がたってくれれば健太郎くんは諦めてくれるかもしれないし、他の女子生徒たちが先生に近寄らなくなるからいいのに。
なんて自分勝手なことも考えてしまうけれど。
でもこんなことは口にしてはいけないって分かってる。
わたしは理解あるふりをして、先生を見ながらうなずいた。
「あー、でも遅いから家に連絡はしておく? 」
そんなことを言われると、先生から現実的な距離を置かれてしまったように感じてしまう。
やっぱり先生にとってわたしは生徒であって。
そして大人と子供なのかもしれないって。
「今日は母は仕事で遅くなるそうなので大丈夫です」
言いなれたうそは反射的に口から出てくる。
電話なんてしても出るわけないし、万が一にでも出られたら『すぐに帰ってきなさい。ご近所に見られたら……』っていい始めるのは目に見えているし。
というか、先生と2人でいられるときにあの人の話なんてしたくもない。