春の扉 ~この手を離すとき~
「それより、……今日はすみませんでした。何も言わずに」
「だいたいの想像はついているけれどね」
せっかく先生に背中を押してもらえたのに。
昨日から健太郎くんや智香たちに、何一つ伝えることができていない自分が情けなくなってくる。
「もしかしてさ、僕が美桜を困らせてる? 」
「……どうしてですか? 」
予想外の言葉に驚いてしまう。
「僕が美桜を焦らせたり追い込んでしまっているんじゃないのかなってね」
「そんなことないです」
わたしは完全否定するように頭をぶんぶんと振った。
先生がそんな風に思っていたなんて。
「そっか。……でもご存じのとおり僕は人のことは言えないし、僕に合わせることはないからね。美桜のタイミングでいいんだよ」
「はい、分かっています。……でも袋小路になっちゃって」
わたしはこれまでの出来事を話してみた。
お付き合いを断っても伝わらないこと。
そして友達の気持ちに気づいてしまったこと。