春の扉 ~この手を離すとき~

「先生、聞いてもいいですか?」

「ん? なに? 」

「咲久也先生は、……ここで何をしていたのですか? 」

「それって、聞かないと分からない?」


そんな返しかたってずるいと思う。


……言葉にしてほしいから、聞いているのに。


引っ張ってくれた手。
冷めてしまっているカフェオレ。


わたしを待っててくれた。


もしも本当にそうなのなら……でも。



「思ってることと違っていたら恥ずかしいから」

「じゃあ当たりかもね」


先生の表情がうれしそうに見えるのは、
わたしの自意識過剰じゃありませんように……。


「でもさ、……あまりにも遅いからさすがに心配にはなったよ」


深くため息をついた先生は少しだけ参ったような顔をするとわたしの右手をとった。

また手をつないでくれるのかと思ったのに、……違う?
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