春の扉 ~この手を離すとき~

先生はわたしをじっと見つめたあと、ゆっくりと手の甲に口づけを落とした。



頭の中が真っ白になって、先生と自分の手を交互に見てやっとこの状況を理解できた。


「……、あのっ、」


恥ずかしくて手を引こうとするけれど、先生は口づけたまま手を離してくれない。

破裂するほどに心臓が動き出して、顔が熱くなりすぎて涙が出そうになってくる。



「………消毒完了。……僕以外に触れさせるのは禁止だからね」


そう言って唇を放した先生は不機嫌そうにわたしを見ると、手をぎゅっと握ってから離してくれた。


消毒? ……ってなに?


もしかして、公園での健太郎くんとのことを気にしているってこと?


それって、……先生がやきもちを妬いてるの?


そうだと思うと、うれしくて顔がにやけてしまう。

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