春の扉 ~この手を離すとき~
「じゃあチョコだね」
ちょこ?
チョコってチョコレート?
突然なにを言い出したんだろ?
わたしが目をあけると先生はうれしそうなままだった。
でも、さっきより少し距離が近くなった気がしてドキッとしてしまう。
「理由はどうあれ、僕を心配させたことへのお詫びにバレンタイン、ね? 」
「……はい」
と答えながらも思わずクスっと笑ってしまった。
「どうして? おかしいかな? 」
先生は笑われると思っていなかったのか、少し戸惑っているみたい。
「だって大人の男性がチョコが欲しいって言うなんて、可愛いなって」
「可愛いとか傷つくなー」
「きゃっ」
先生は意地悪そうにわたしの髪をくしゃくしゃっとして笑っている。
やっぱりくすぐったくて恥ずかしい。