春の扉 ~この手を離すとき~

マンションに着くまでは、まるでおばあちゃんの家にいるような、落ち着く時間だった。

初めてこの車に乗ったときは会話がなくなったらどうしようとか、腹がたって降りようとしてしまったのが嘘みたいで。
今は、このまま着かなければいいのにって思ってしまう。

それは先生も同じ気持ちみたいで。


遠回りの道に進んでいく車に気がついて先生を見ると、先生は何も言わずにうなずいてくれた。


でもどんなに遠回りをしてもマンションにはついてしまって。


何も言わない先生と、なかなかドアに手がかけれないわたし。
だってこの車を降りたら先生と2人だけで過ごす時間が終わってしまう。


「じゃあまた明日、学校でね」


仕方なさそうに先生がわたしの頭に手をおいた。


「あの、……明日は放課後はお手伝いありますか? 」

「実はさ、本当は昨日で終わっていたんだよね」

「……え? 」

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