春の扉 ~この手を離すとき~

「でも今すぐではないよ。美桜は生徒、僕は臨時で新米だけれど教師という立場にある。だから美桜が卒業したら、ね? 」


大きくうなずいて「はいっ」っと返事をするわたしに、先生もうんとうなずいてくれた。



卒業まであと2年もあるけれど。

その約束だけで、ある程度は予想できるありきたりな高校生活に風が吹き込んできて視界が開けたような、そんな気持ちになった。


「あー、ごめん。美桜はそんなによろこんでくれているのにごまかそうとする僕はずるいね」

「なにがですか? 」


そんなによろこんでいる顔をしてるのかな?

と両手で頬をおさえると、その緩みぐあいに納得。
すかさず頬を軽くたたいて応急処置で平常の顔に戻そうとしてみた。

そんなわたしを見て先生は微笑んでくれる。
その笑顔がはずかしいけれどうれしくて、また顔がほころんでしまう。


「『お礼』なんて理由をつけたけれど、本当はそうじゃないんだよね」

「……そうじゃないって? 」


首をかしげてしまうわたしに、今度は先生が座りなおして姿勢を正した。


「卒業したら、僕と会ってくれますか? 」







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