春の扉 ~この手を離すとき~
「そ・れ・よ・り、……咲久也先生めっちゃくちゃかっこよくない? 」
一瞬でテスト勉強に飽きたらしく、参考書から離脱してきた文乃が話題を変えてくれて、智香とわたしは大きくうなずいて色めきたった。
空のグラスなんかどうでもいい。
今はこの話題の方が最重要事項!
「臨時だけなんてもったいないよね。ずっとうちの学校に居てくれたらいいのに」
わたしの願望に文乃と智香はうんうんと首をたてに振る。
咲久也先生というのは春永 咲久也(はるなが さくや)。
担任の池田先生が入院したため、昨日から臨時講師としてやってきた先生だった。
サラサラの黒髪とさわやかな笑顔。
ものごしの優しい話し方。
一瞬でクラス中、いや学校中のほとんどの女子生徒の心を鷲掴みにしてしまった。
もちろんわたしもその中に漏れることなく含まれていて、かっこいいと思っている。
ただそれが一部の男子たちにはかなりの不評のようで……。