春の扉 ~この手を離すとき~
「あ、咲久也先生だっ! せんせーいっ」
授業の合間に文乃と飲み物を買っていると、廊下の向こうから歩いてくる咲久也先生に文乃が気づいて手をふった。
先生の周りには数人の女子生徒がとりまいていて……。
みんなが先生を狙っているのかと思うと少しだけ、……いや、かなりいい気はしない。
あの日以来、先生と2人になるということがなかった。
機会がないことはなかったのだけれど、わたしが避けてしまっていて。
先生は何度か『プリント集めて持ってきて』と、正当な理由をくれて呼び出してくれたのだけれど。
手にキスをされたことを思い出すとどんな顔をしていいのかわからなくて。
無理矢理に文乃についてきてもらっていた。
その度に先生は『えっ? 』って顔をするけれど、わたしは赤くなってしまう顔をぶんぶんと振るしかない。
そんなわたしに先生は『仕方ないな』という風に首を傾けて苦笑いを浮かべてくれていた。