春の扉 ~この手を離すとき~

マンションを出ると、天気予報通りに雪がちらほらと舞いはじめていた。

ホワイトバレンタイン

なんだかロマンチックだな。
きれいだと寒さなんて気にならない。
むしろ熱っぽい顔には心地いい。


なんて思っていると、スマホが着信を告げた。

健太郎くんからだった。

話すことなんてないし、今は咲久也先生のことしか考えたくなくて。

カバンにスマホをなおしたとき


「美桜っ」


近くから声がした。

数歩前にスマホを耳にあてたままの健太郎くんが立っていた。

電話にあえてでなかったことがバレてしまって、罪悪感が心を包む。

健太郎くんはなんともいえない顔をしながら側にきた。


「どこ行くんだよ? 熱あるって文乃から聞いたけど…… 」


まともに健太郎くんの顔が見れない。


「大丈夫だよ。これからお母さんと待ち合わせしてるから」

「じゃあそこまで送っていくし」


ついて来られたら嘘も先生との待ち合わせもばれてしまう。

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