春の扉 ~この手を離すとき~

「そんなことしなくていいよ。それより、どうしたの? 」

「心配だったから来てみただけ。ってか結局あのあとすっげー説教くらって部活に出るはめになってさー……」


健太郎くんは顧問や先輩に叱られた話を始めだした。
でも、聞くつもりも、聞いている時間もない。
早く先生のところに行きたいのに。


「わたしも部活には出た方がいいと思う。それで、智香は一緒じゃないの? 」


話を終わってほしくて無理に割り込んでみたけれど。


「さぁ? 文乃と一緒じゃねーの」

「そうなんだ。じゃあわたし行くね。……きゃっ! 」


立ち去ろうとしたわたしは、健太郎くんに手首をがっしりと掴まれてしまった。

びっくりして思わず振り払おうと思ったけれど、手首にジワッと食い込んできた痛みがそうはさせてくれなかった。


ブレスレットが切れてしまう。


それが気になってしまい、わたしはわたしを引っ張る健太郎くんについて行くしかなかった。
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