春の扉 ~この手を離すとき~

わたしはマンションの脇に引っ張られていった。


「なに、どうしたの? 離してよ」

「美桜っ、」

「……きゃっ! 」


振り向いた健太郎くんは恐いぐらいに真剣な顔をしていて、引き寄せたわたしの背中を壁に押しつけた。

壁の冷たさと痛さが背中に伝わってくる。


「なんであいつなんだよ?」

「……なにを言ってるの? 」

「あいつのところに行くんだろ? 」


『あいつ』って咲久也先生のことだよね。
でもわたしは返事をするわけにはいかない。

それが、健太郎くんにとっては“答えのないことが答え”なんだとしても。

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