春の扉 ~この手を離すとき~
「ごめん、お母さんが待ってるから行くね」
健太郎くんは壁に両方の手をつくと、この場から去ろうするわたしの逃げ道を塞いでしまった。
身動きがとれなくなったわたしに、健太郎くんは覆い被さるように真剣な眼差しを落としてくる。
健太郎くんのやるせない気持ちが怒りのように伝わってきた。
でもわたしにはそれが怖さと拒絶しかなくて。
持っていた先生へのチョコレートの箱をいつの間にか強く抱きしめてしまっていた。
「健太郎くん、もうやめようよ」
「……美桜、なんで俺じゃだめなんだよ? 」
本当にこれ以上は限界だと思う。
このままだと、わたしたちはもっと深く傷ついていく。
傷つかないために傷を広げるしかない。