春の扉 ~この手を離すとき~

「ごめん、お母さんが待ってるから行くね」


健太郎くんは壁に両方の手をつくと、この場から去ろうするわたしの逃げ道を塞いでしまった。

身動きがとれなくなったわたしに、健太郎くんは覆い被さるように真剣な眼差しを落としてくる。


健太郎くんのやるせない気持ちが怒りのように伝わってきた。

でもわたしにはそれが怖さと拒絶しかなくて。


持っていた先生へのチョコレートの箱をいつの間にか強く抱きしめてしまっていた。


「健太郎くん、もうやめようよ」

「……美桜、なんで俺じゃだめなんだよ? 」



本当にこれ以上は限界だと思う。

このままだと、わたしたちはもっと深く傷ついていく。

傷つかないために傷を広げるしかない。

< 234 / 349 >

この作品をシェア

pagetop