春の扉 ~この手を離すとき~
「わたしがあなたを好きにはなれないから。健太郎くんだってそうでしょう? 」
「俺は美桜が好きだよ」
「初めはそうだったかもしれないけれど、今は違うよね? 意地になっているようにしかみえない」
「……、違う」
健太郎くんの声色が少しかすれた気がした。
「違わない。……そこをどいて」
「あいつは美桜を傷つけるだけなんだよ。……だから行かせない」
そう言って顔を近づけてくる健太郎くん。
とっさにチョコレートの箱で唇を隠すと、怖くて顔を伏せてぎゅっと目をつぶった。
もうあんなこと、絶対にいや。
「それあいつのだろ? でも無駄だよ。あいつなら女と一緒にいるし」
いきなり何の話?
『女と一緒』ってなに?
『彼女がいてもおかしくないしさー』
文乃の言葉が頭の中に思い返されてくる。
でもそんなわけない。
先生はわたしを待っててくれているはずだから。
なのにこの不安はなに?