春の扉 ~この手を離すとき~
健太郎くんの息づかいが前髪にかかって、不快なくすぐったさが伝わってくる。
わたしがどちらも振り払うように頭を振ると、ため息をつきながら健太郎くんが少し顔を離したのが分かった。
「こんなことを言う俺も最低だよな。でもあいつなら車ん中で女といたし。嘘だと思うなら確かめてくればいいじゃん」
「……」
「学校の近くの細い街路樹んところ」
ぶっきらぼうに言い放つ健太郎くんを思わず見上げた。
だって、健太郎くんが先生との待ち合わせの場所を知っているわけがないのに。
これは作り話ではないってこと?
「何の話か分からない。お母さんが待っているからそこをどいて」
ごまかしたいけれど、わたしの声、震えている。
「じゃあ見てこいよ」
そう言って、健太郎くんはわたしから1歩離れてくれた。