春の扉 ~この手を離すとき~
自分の気持ち
健太郎くんから逃げるように。
それだけじゃない。
健太郎くんが言っていたことを振り落とすように走りながら、わたしは、待ち合わせの場所に急いだ。
先生はわたしを待ってくれている。
健太郎くんの子供じみた作り話なんて信じない。
きっとかまをかけられただけ。
でも健太郎くんがそんな嘘をつくなんて思えなくて。
くしゃくしゃになってしまったチョコレートの箱みたいに、わたしの心に不安が刻まれていく。
約束の場所に、この間と同じ場所に先生の車はあった。
ホッとして、呼吸を整えながら乱れた髪と服を直した。
そして車に近寄ろうとしたとき、運転席から降りた先生は、助手席のドアを開けた。
でもそれは、……わたしのためではなかった。