春の扉 ~この手を離すとき~

わたしの視線を感じたのか、その女性と目があった。
それに気づいて咲久也先生がこっちに顔を向けた。


わたしを見て驚いた顔をする先生。


……どうしてそんな顔をするの?


二人の待ち合わせの場所なのに。

わたしが来るのは分かってるはずなのに




そして先生が口を開こうとしたとき、その女性が先生の背中に腕を回した。


ドクンと胸が大きく鼓動して、息が止まった。
きっと、時間も止まったんだと思う。


夢なのか現実なのかわからない。


でも、それはきっと見てはいけないもの。


“ここにいるべきじゃない”


そう思うと、わたしはそこから走って逃げ出した。













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