春の扉 ~この手を離すとき~

コンビニのガラスに映っているのはわたしだよね。


せっかく綺麗にした髪は乱れてくしゃくしゃになっているし、頬を伝うのは涙なのか、雪が溶けているのかも分からない。


咲久也先生と一緒いた人は大人っぽくて綺麗な女性だったな。
それに比べてわたしは見た目だけで背伸びしていた。

こんなわたしに咲久也先生が振り向いてくれるはずなんかない。生徒の1人として気にかけてくれていたのを、わたしが勘違いしてただけなんだよね。


「美桜……?」


振り返るとそこには智香がいた。
わたしの泣き顔を見た智香は少し戸惑ったようで。


「……健太郎が探してたけど」

「そうなんだ」


泣いている理由には触れないでくれたみたい。
そういうところは優しいよね。
きっと文乃なら『どうしたのー? なになに? 』ってしつこく聞いてくるんだろうな。


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