春の扉 ~この手を離すとき~
「『そうなんだ』って。あいつすごく心配してるのにそれだけ? 」
智香が心配しているのは健太郎くん。
智香は別にわたしのことなんて心配していないんだよね。
そして、健太郎くんに頼まれてわたしを探していただけ。
ちょっと寂しいかも。
わたしはコートの袖で涙をふくと、智香を見た。
「もうね、……健太郎くんには関わりたくないの」
「……なんでそんな言い方するのよ? 」
「どうして分かってくれないの? 」
これは智香に言った言葉じゃない。
健太郎くんへの気持ちなんだと思う。
それに、今は誰とも話しをする余裕なんてない。
拭いたばかりの涙がまた溢れてくる。
はやく家に帰りたい。
1人になって泣きたかった。
「ちょっと待ってよ」
智香に背を向けて歩き始めたわたしの腕を、智香は思いきり引っ張った。
その弾みで、先生にあげるはずだったチョコレートの箱が地面に落ちてしまった。