春の扉 ~この手を離すとき~
「これ誰にあげるの? 健太郎へじゃないんだよね? 」
つぶれてしまっているチョコレートの箱を見ながら智香が聞いてくる。
あげる相手なんて、……もういない。
「健太郎は美桜に振り向いてほしくて、美桜のために部活をずっと休んでるんだよ? レギュラーもはずされて、なのに美桜は、」
それがどうしてわたしのせいになるの?
健太郎くんが自分で決めたことなのに。
なのに、好きになれないわたしが責められてしまうの?
「健太郎くんが休んでいるのはわたしのためじゃなくて自分のためだよ。 わたし、健太郎くんに休んで欲しいって頼んだことなんてないし、それに……」
これ以上は言ってはだめってわかってる。
でもいったん溢れ出した言葉がとまらない。
「レギュラーとかそんなこと、わたしには関係ない」
―― バシンッ
左の頬に痛みが走った。
「あんたって本当に最低だね」