春の扉 ~この手を離すとき~
『本当に最低』か……。
改めて言うってことはそう思われていたってことだよね。
そっか。
なんだか虚しくなってくる。
智香は振り降ろした手を強くにぎりなおした。
その手は震えている。
それは怒りから? それとも……
「美桜にとっては『そんなこと』かもしれないけどさ、健太郎には大切なことなんだよっ」
わたしは頬の痛みを確かめるように手をあてた。
じーんと痛みが広がっていく。
けっこう痛いかも
なんて冷静に考えてる自分に少し驚いたりしているけれど。
わたしは落ちたままのチョコレートの箱をみつめた。
まるで今のわたしみたいに、ボロボロでぺったんこで惨めな箱。
こんなもの欲しいって思う人なんているはずもない。