春の扉 ~この手を離すとき~
「好きで付き合っているんじゃないことは、智香は知ってたよね? 」
「知ってるよ。だから、これ以上健太郎を振り回すのをやめてくれない? 健太郎のことを思うのなら別れてあげてよ」
智香の言葉に悲しくなってくる。
相談しなかったのはわたしだけれど、わたしの気持ちも少しは思っていてほしかったな。
「智香はわたしのことは考えてくれないの? 」
ぬぐってもぬぐっても、もう涙は止まりそうになくて。
「だって美桜は自分のことしか考えてないよね。 健太郎に言いづらいのは分かるけれど、美桜が言わないのは自分だけを大切にしているからだよ 」
「自分を大切にしちゃいけないの? だからわたし、……みんなとバラバラになりたくないから、……わたしのために何度も別れたいって言っているんだよ」
「……え? 」